深層学習技術で世界をリードし、日本のAI分野を牽引するPreferred Networks。本稿では、その驚異的な成長と多様な事業展開に焦点を当て、同社がユニコーン企業として確立した地位と、今後のさらなる飛躍の可能性を探ります。
概要
社名:Preferred Networks(プリファードネットワークス、PFN)
国:日本
設立年: 2014年3月26日
業種:AI(人工知能)
評価額:3000億円以上(日本国内のユニコーン企業最高額)
年 | 評価額 |
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2015 | 約150億円 |
2024 | 約3000億円 |
歴史:
年 | 出来事 |
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2006年3月 | 西川徹、岡野原大輔らによりPreferred Infrastructure (PFI)設立 |
2014年3月26日 | PFIよりPreferred Networks (PFN)がスピンオフ設立、代表取締役社長に西川徹が就任 |
2014年10月 | トヨタ自動車と共同研究を開始、NTTと資本業務提携 |
2015年6月 | オープンソースの深層学習フレームワークChainerを公開 |
2015年8月 | FANUCからの出資により評価額が150億円に到達 |
2015年12月 | トヨタ自動車からの出資 |
2016年10月 | PFNがん研究拠点を設立 |
2017年8月 | トヨタ自動車から大規模な資金調達を実施、モビリティ分野におけるAI開発を加速 |
2018年12月 | 独自開発のAIアクセラレータMN-CoreとスーパーコンピュータMN-3の開発を発表 |
2019年12月 | 深層学習フレームワークChainerの開発終了とPyTorchへの移行を発表 |
2020年6月 | スーパーコンピュータMN-3がGreen500で世界1位を獲得 |
2021年11月 | 子会社Preferred Roboticsを設立 |
2021年6月 | ENEOS株式会社との合弁会社Preferred Computational Chemistryを設立 |
2024年12月 | 最新の資金調達で190億円を調達、評価額は3000億円を超える |
社是:Make the real world computable.(実世界を計算可能にする)
公式サイト: www.preferred.jp
企業の強み
Preferred Networksがユニコーン企業へと成長を遂げた背景には、いくつかの重要な強みが挙げられます。まず、同社は最先端の深層学習アルゴリズム開発において卓越した能力を有しています。単に研究に留まらず、その技術を現実世界の課題解決に応用することに重点を置いている点が特徴です。例えば、トラック運転手不足という日本の社会課題に対し、自動運転技術で貢献しようとしています。
さらに、Preferred Networksはソフトウェアだけでなく、AI専用のハードウェア開発にも力を入れています。「MN-Core」シリーズと呼ばれる独自のAIプロセッサは、同社の技術力を象徴するものです。このカスタムチップの開発により、特定のAIワークロードにおいて汎用的なGPUやCPUよりも高い性能とエネルギー効率を実現できる可能性があります。実際に、「MN-Core」を搭載したスーパーコンピュータ「MN-3」は、省エネ性能ランキングであるGreen500で何度も世界一位を獲得しており、その技術力の高さを証明しています。
また、トヨタ自動車やファナックといった日本の主要企業との戦略的なパートナーシップも、Preferred Networksの成長を支える大きな要因です。これらの提携を通じて、実用的なデータへのアクセスや、実際のアプリケーション開発の機会を得ています。さらに、ハードウェアからソフトウェアまでを一貫して開発する垂直統合型のアプローチも、同社の競争力を高めています。基礎研究から応用、そして製品開発までを自社で手掛けることで、迅速な技術革新と市場投入を可能にしているのです。
事業紹介
Preferred Networksの事業は、その高度な深層学習技術を基盤として、多岐にわたる分野に展開されています。運輸システムにおいては、トヨタ自動車との協業による自動運転技術の開発が注目されています。製造業では、ロボティクスや画像処理による外観検査ソリューションなどを提供し、工場の自動化に貢献しています。
医療分野では、国立がん研究センターとの共同研究による血液中のexRNA解析を用いたがん診断や、深層学習を活用した創薬研究などに取り組んでいます。また、家庭用ロボット「Kachaka」の開発・販売も手掛けており、AI技術をより身近な存在にしています。エネルギー分野では、JX金属エネルギーとの共同研究で石油精製所の最適化に取り組んでいます。
特筆すべきは、物質探索のためのユニバーサル原子シミュレーター「Matlantis」の開発です。これは、膨大な独自のデータセットで学習されたAIを活用し、バッテリー、触媒、半導体などの新材料開発を飛躍的に加速させる可能性を秘めています。
さらに、Preferred Networksはエンターテイメント分野にも進出しており、アニメキャラクターの自動生成プラットフォーム「Crypko」や、線画の自動着色サービス「Petalica Paint」、プログラミング可能なキャラクターが登場するオープンワールドゲーム「Omega Crafter」などを提供しています。
法人向けには、AIクラウドコンピューティングプラットフォーム「PFCP」を提供し、自社開発のAIプロセッサ「MN-Core」の能力をクラウド上で利用可能にしています。かつて開発していた深層学習フレームワーク「Chainer」は開発を終了しましたが、現在はPyTorchコミュニティに積極的に貢献し、ソフトウェアライブラリなどを提供しています。その他、スポーツアナリティクスやプログラミング教育など、幅広い分野でAI技術の応用を進めています。このように、Preferred Networksは産業向けソリューションと消費者向け製品の両面から、AI技術の社会実装を推進しています。
創設者
Preferred Networksは、東京大学大学院在学中にACM国際大学対抗プログラミングコンテストで活躍した西川徹氏(代表取締役社長 CEO)と岡野原大輔氏(代表取締役副社長 最高研究責任者)らによって2014年に設立されました。彼らは、その前身となるPreferred Infrastructure(PFI)を2006年に共同で設立しており、情報検索、自然言語処理、機械学習などの分野でソフトウェア開発を主導してきました。PFIの共同創業者には、後にTreasure Dataを設立した太田一樹氏や、Retrievaを創業した西戸望氏も名を連ねています。
西川氏はPFI時代からソフトウェア開発を牽引しており、その卓越した技術力とリーダーシップがPreferred Networksの成功に大きく貢献しています。プログラミングコンテストでの実績が示すように、創業メンバーは高度な問題解決能力とアルゴリズムに関する深い知識を有しており、それが革新的なAI技術の開発につながっています。PFIが検索や自然言語処理といった分野に強みを持っていたことが、後のPreferred Networksにおける深層学習技術の応用へと繋がったと考えられます。これは、時代の変化を捉え、新たな技術トレンドに迅速に適応する創業者の先見の明を示すものです。
将来性
Preferred Networksは、今後もAI分野における研究開発を積極的に推進していくと予想されます。特に、最新の資金調達で得た資金は、高性能なAIプロセッサ「MN-Core」シリーズ、特に生成AI向けの推論プロセッサ「MN-Core L1000」の開発、製造、販売の加速に充てられる予定です。また、国産の生成AI基盤モデル「PLaMo」の強化や、これらの技術を活用した多様な分野でのソリューション・製品開発、そして大規模コンピューティングインフラの拡充にも投資していく方針です。
同社は、引き続き優秀な人材の採用を強化し、トヨタ自動車をはじめとする主要企業との戦略的パートナーシップを継続することで、さらなる事業拡大を目指すと考えられます。自動運転技術によるトラック運転手不足の解消といった社会課題への貢献も視野に入れており、経済的な成長だけでなく、社会的なインパクトも追求していく姿勢が伺えます。生成AI基盤モデル「PLaMo」の開発強化は、急速に成長する生成AI市場において重要な地位を確立しようとする戦略的な動きであり、様々な産業やアプリケーションに革新をもたらす可能性があります。
まとめ
Preferred Networksは、日本が誇るAIユニコーンとして、その革新的な深層学習技術と多様な事業展開によって、IT業界を牽引する存在です。独自のAIプロセッサ開発力と、スーパーコンピュータでの世界的な実績は、同社の高い技術力を示しています。運輸、製造、医療、エンターテイメントなど幅広い分野での事業展開は、その技術の汎用性と市場への適応力を物語っています。今後も、研究開発への積極的な投資と戦略的なパートナーシップを通じて、Preferred NetworksはAI技術の進化と社会実装を加速させ、私たちの未来を大きく変えていくことが期待されます。
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