IT業界においては、革新的な技術やビジネスモデルで市場を席巻する企業が次々と登場し、注目を集めています。今回ご紹介するのは、ユニコーン企業の中でも異彩を放つ、日本のSpiber株式会社です。彼らは一体どのような技術で、どのようにしてユニコーン企業の仲間入りを果たしたのでしょうか?その魅力に迫ります。
概要
社名: Spiber株式会社
国: 日本
設立年: 2007年9月26日
業種:ライフサイエンス
評価額: 約2400億円
年 | 評価額 |
---|---|
2021 | 約1220億円 |
2024 | 約2400億円 |
歴史:
年 | 出来事 |
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2004 | 関山和秀と菅原潤一が大学研究室で研究開始 |
2007 | Spiber株式会社設立 |
2008 | 山形県鶴岡市に移転 |
2012 | 山形県科学技術奨励賞を受賞 |
2013 | 世界初の合成クモ糸繊維「QMONOS」の量産化に成功、試作研究施設工場稼働開始 |
2014 | エクスパイバー本社研究棟稼働開始、大学発ベンチャー表彰特別賞受賞、Xpiber設立、ImPACTプログラムに選定 |
2015 | 日本ベンチャー大賞受賞、資本金増資、社名変更(スパイバー→Spiber)、ゴールドウインと事業提携・出資、ムーンパーカのプロトタイプ発表、Brewed Protein™素材誕生 |
2018 | Spiber (Thailand) Ltd.設立 |
2019 | 初の製品(ムーンパーカ、THE NORTH FACE Tシャツ)を市場へ |
2020 | Spiber America LLC設立、評価額1000億円超え |
2021 | シリーズEで344億円の資金調達、評価額1220億円 |
2022 | タイで商業規模のBrewed Protein™ポリマー生産開始、Spiber Europe設立 |
2024 | 兼松との協業開始と第三者割当増資、100億円超の資金調達、Brewed Protein™ファイバーが多数のグローバルブランドに採用 |
社是: 『Contribute to Sustainable Human Wellbeing, More than materials.』(持続可能な人類の幸福に貢献する、素材以上のもの。)
公式サイト: https://spiber.inc/
企業の強み
Spiber株式会社がユニコーン企業へと成長を遂げた背景には、いくつかの強力な要因が存在します。その最たるものが、独自開発した革新的な技術「Brewed Protein™」です。これは、微生物の発酵プロセスを利用して製造される、全く新しいカテゴリーのタンパク質繊維です。自然界の多様性と循環性からインスピレーションを得て開発されたこの素材は、従来の繊維素材とは一線を画す可能性を秘めています。
また、Spiberの強みとして特筆すべきは、その持続可能性への強いコミットメントです。アパレル産業をはじめとする様々な業界が環境負荷の低減を迫られる中、Spiberは環境問題の解決に貢献する素材を提供することで、時代のニーズに応えています。この持続可能性への注力は、環境意識の高い消費者や投資家からの共感を呼び、企業価値の向上に繋がっています。
さらに、Spiberは戦略的なパートナーシップを積極的に展開しています。特に、スポーツアパレル大手のゴールドウインとの協業によって誕生した世界初の人工タンパク質素材高機能ウエア「ムーンパーカ」は、Spiberの技術力を広く知らしめるきっかけとなりました。その他にも、THE NORTH FACEをはじめ、sacai、PANGAIA、Woolrich、Ron Hermanといったグローバルブランドとの協業も実現しており、その素材が市場で高い評価を得ていることが伺えます。生産体制の強化に向けては、米国の穀物メジャーであるADMとの提携、そしてより高度なテキスタイル応用に向けては、イタリアの高級糸メーカーBotto Giuseppeとの協業 など、多岐にわたるパートナーシップがSpiberの成長を支えています。最近では、総合商社の兼松との協業も開始し、Brewed Protein™素材の新たな用途開発に取り組んでいます。
グローバル展開もSpiberの重要な戦略の一つです。タイには大規模な生産拠点であるSpiber (Thailand) Ltd.を設立し、年間500トンものBrewed Protein™ポリマーを生産できる体制を構築しています。また、米国にはSpiber America LLC、ヨーロッパにはSpiber Europeを設立し、それぞれの地域での事業展開を加速させています。
これらの事業展開を支えるのが、強力な投資家からのバックアップです。カーライル、フィデリティ・インターナショナル、クールジャパン機構といった国内外の有力投資家からの資金調達に成功しており、その総額は10億ドルを超えています。これは、Spiberの技術と将来性に対する市場の高い期待の表れと言えるでしょう。
さらに、Spiberは世界で初めて合成クモ糸繊維「QMONOS」の量産化に成功し、合成タンパク質を用いた衣料製品を市場に投入したパイオニアでもあります。この革新的な技術力と、それを実用化するスピード感も、Spiberの大きな強みです。
事業紹介
Spiber株式会社の主要な事業は、独自技術であるBrewed Protein™を用いた革新的なバイオ素材の開発と製造です。この素材は、植物由来のバイオマス、糖、そして微生物を用いた発酵プロセスによって生産されます。特筆すべきはその汎用性の高さであり、特性や風合いを自在にカスタマイズできるため、様々な産業への応用が期待されています。
現在、最も注力しているのがファッション・アパレル分野です。前述のゴールドウインとの共同開発による「ムーンパーカ」をはじめ、THE NORTH FACE、sacai、PANGAIA、Woolrich、Ron Hermanといった世界的なブランドがBrewed Protein™を採用した製品をリリースしています。また、イタリアのBotto Giuseppeとの協業により、100% Brewed Protein™製の糸が開発されたことは、テキスタイル業界における新たな可能性を示唆しています。
アパレル分野以外にも、Spiberは自動車産業への応用も視野に入れています。兼松との協業では、自動車分野におけるBrewed Protein™の用途開発が進められており、軽量化や環境負荷低減に貢献する素材としての活用が期待されます。さらに、の情報からは、パーソナルケア業界への展開も検討されていることが伺えます。タンパク質由来の素材であるBrewed Protein™は、化粧品や衛生用品など、幅広い分野での応用が期待できるでしょう。
Spiberのターゲット顧客は、これらの素材を自社の製品に取り入れることを目指す、ファッション、自動車、パーソナルケアといったグローバルブランドです。また、これらのブランドを通じて、環境意識の高い一般消費者も間接的なターゲットとなります。
Spiberのビジネスモデルは、主にBrewed Protein™素材を開発・製造し、それをパートナー企業に供給するという形をとっています。また、特定の用途に合わせた素材の共同開発なども積極的に行っていると考えられます。この戦略により、Spiberは自社で最終製品を製造・販売するリスクを抑えつつ、幅広い市場への参入を可能にしています。
創設者
Spiber株式会社を創業したのは、関山和秀と菅原潤一の二人です。関山氏は代表執行役を務めており、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)でバイオインフォマティクスを専攻していました。菅原氏も同様にSFCでバイオインフォマティクスを学び、2004年には大学の研究室で微生物発酵によるクモ糸繊維の生産に関する研究を共に開始しました。
二人がSpiberを設立した背景には、アパレル産業が抱える環境問題や社会課題を解決したいという強い思いがありました。大学での研究成果を基に、2007年9月26日、Spiber株式会社を設立し、起業家としての道を歩み始めました。
彼らの根底にあるのは、「Contribute to Sustainable Human Wellbeing(持続可能な人類の幸福に貢献する)」という強い理念です。この理念は、世界に生まれたすべての人が尊重され、大切にされ、幸せを感じながら生きられる社会を実現したいという願いに基づいています。この創業者の強いビジョンと哲学が、Spiberの革新的な技術開発と事業展開の原動力となっています。大学発の研究シーズを基に、世界を変える可能性を秘めた企業を創り上げた二人のストーリーは、多くの人々にインスピレーションを与えています。
将来性
Spiber株式会社の将来性は非常に有望であると言えます。まず、商業規模のBrewed Protein™ポリマー生産工場がタイで本格稼働を開始したことは、研究開発段階から量産体制へと移行したことを意味し、今後の事業拡大に向けた大きな一歩となります。これにより、より多くのグローバルブランドへの素材供給が可能となり、収益の増加が期待されます。
また、ファッション分野での実績を基盤としつつ、自動車やパーソナルケアといった新たな分野への応用開発も積極的に進めていることは、将来的な成長の可能性を大きく広げています。特に、環境負荷の低減が求められる自動車産業において、Spiberの素材がどのような革新をもたらすのか、注目が集まります。
さらに、世界的なブランドとの戦略的な提携を継続的に行うことで、Brewed Protein™の認知度と市場でのプレゼンスはますます高まるでしょう。特に、100% Brewed Protein™製の糸の開発成功は、より幅広いテキスタイル製品への応用を可能にし、市場の可能性を大きく広げるものです。
Spiberの事業は、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の推進にも大きく貢献します。従来の素材に代わる持続可能な選択肢を提供することで、有限な資源への依存を減らし、環境への負荷を最小限に抑えることが期待されます。
Spiberの革新的な取り組みは、既存の素材科学業界にも大きな影響を与える可能性があります。彼らの成功は、バイオベース素材の研究開発へのさらなる投資を促し、より持続可能な社会の実現に向けた動きを加速させるでしょう。
まとめ
Spiber株式会社は、「Brewed Protein™」という革新的なバイオ素材の開発を通じて、ファッション業界をはじめとする様々な分野に革命を起こしつつあるユニコーン企業です。持続可能性への強いコミットメント、グローバルブランドとの戦略的なパートナーシップ、そして何よりも世界をより良くしたいという創業者の熱い想いが、彼らを今日の成功へと導きました。
IT業界に関心のあるビジネスパーソンの皆様にとって、Spiberの事例は、テクノロジーとサステナビリティが融合し、新たな価値を生み出す可能性を示唆するものではないでしょうか。彼らの今後の展開から目が離せません。
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