ユニコーン企業の中でも、アジアのフィンテック業界から頭角を現し、世界を舞台に成長を続ける注目すべき一社が、今回ご紹介するOpn株式会社(旧Omise、SYNQA)です。その革新的な決済ソリューションとグローバルな野望に迫ります。
概要
社名:Opn株式会社(OPN Co., Ltd.)
国:日本(創業はタイ)
設立年:2013年6月
業種:フィンテック
評価額:約1500億円(2022年半ば時点)
年 | 評価額 |
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2022年5月 | 約1500億円 |
歴史:
年 | 出来事 |
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2013年 | 長谷川潤氏とエズラ・ドン・ハリンスット氏により、タイでOmiseとして創業。当初はEコマースに注力するも、後に決済事業へ転換。 |
2015年 | タイで決済ゲートウェイサービスの提供を開始。 |
2016年 | 日本へサービスを拡大。シリーズBで1750万ドルの資金調達を実施。 |
2017年 | タイの決済サービスプロバイダーPaysbuyを買収。シンガポールでサービスを開始。OmiseGO(OMGネットワーク)のICOで2500万ドルを調達。 |
2018年 | グローバル・ブレイン主導で追加の戦略的投資を受ける。 |
2020年3月 | ブランド名をOpnに統合し、決済ソリューションに注力。タイと日本に法人を設立。Omise Proを発表。 |
2020年6月 | 親会社であるSYNQAがシリーズCで8000万ドルの資金調達を実施。 |
2022年5月 | 正式に社名をSYNQAからOpnに変更し、事業を統合・リブランディング。 |
2022年夏 | 1億2000万ドル(約155億円)の資金調達によりユニコーン企業の仲間入りを果たす。 |
2022年11月 | MerchantEを買収し、米国市場へ参入。 |
2023年1月 | 親会社SYNQAの登記名をOPN Holdings Co., Ltd.に変更。 |
社是:Payment technology to grow your business.(事業成長を支える決済テクノロジー)
公式サイト:https://www.opn.ooo/
企業の強み
Opn株式会社がユニコーン企業へと成長を遂げた背景には、いくつかの重要な強みが挙げられます。その一つが、包括的かつ地域に特化した決済方法の提供です。Opn Paymentsは、約50種類もの決済方法に対応しており、東南アジアを中心とした多様な市場のニーズに応えています。特にローカライゼーションを重視し、各地域の商習慣や決済嗜好に合わせたプロダクトを提供することで、利用者の利便性を高めています。例えば、クレジットカードの普及率が低いタイでは、Alipay、WeChat Pay、TrueMoney Walletといった現地の主要な決済手段をサポートするなど、きめ細やかな対応が強みです。このような地域ごとの特性を捉えた戦略が、Opnの市場における競争力を高める要因となっています。
二つ目の強みとして、導入の容易さと統合されたプラットフォームが挙げられます。Opnは、国内外の多様な決済手段を一つのAPIで統合できるユニファイドAPIを提供しており、これにより、企業は複雑な開発を行うことなく、容易に決済システムを導入できます。さらに、「プラグイン」と呼ばれるノーコードパッケージを提供することで、プログラミングの知識がない企業でも迅速にシステムを組み込むことが可能です。これは、まるでインスタントラーメンを作るかのように簡単であると表現されるほど、その手軽さが強調されています。また、一元化されたマーチャント管理システム(ダッシュボード)を提供することで、煩雑になりがちな決済データの管理を効率化し、ビジネスの全体像を把握しやすくしています。
さらに、戦略的なパートナーシップと市場からの高い評価もOpnの成長を支える重要な要素です。タイで高いシェアを誇るモバイル決済サービス「TrueMoney Wallet」のバックエンド開発を担っていることや、トヨタのキャッシュレス決済アプリ「TOYOTA Wallet」の開発に携わっていることなど、大手企業との連携を通じて、その技術力と信頼性が証明されています。トヨタフィナンシャルサービスや三菱UFJ銀行といった主要な金融機関からの出資も、Opnの将来性に対する期待の表れと言えるでしょう。アジア太平洋地域におけるリーディングカンパニーとしての地位を確立し、ユニコーン企業としての認知度を高めていることも、Opnのブランド価値を向上させています。
最後に、Opnが注力しているのが、急速に成長している組み込み型金融(エンベデッド・ファイナンス)の領域です。これは、金融サービスを非金融プラットフォームにシームレスに統合するコンセプトであり、Opnはこの分野で革新的なソリューションを提供しています。例えば、ライドシェアリングサービスの決済機能や、メッセージングアプリ内の金融サービスなどがその例として挙げられます。Opnは、このような市場のトレンドを捉え、先駆的な取り組みを進めることで、さらなる成長の機会を創出しています。
事業紹介
Opn株式会社は、主にオンライン決済処理サービスを、東南アジアと日本を中心とした地域で展開しています。その中核となるのが、Opn Payments(旧Omise)です。これは、シームレスかつボーダーレスな決済体験を目指し、約50種類もの国内外の決済手段を一つのAPIで利用できるプラットフォームです。クレジットカード決済はもちろんのこと、モバイル決済(Alipay、WeChat Pay、TrueMoney Walletなど)や銀行振込など、各国の利用者の好みに合わせた多様な決済方法に対応している点が大きな特徴です。導入の容易さも特徴の一つで、企業はOpnが提供するシンプルなAPIを通じて、自社のウェブサイトやアプリケーションに決済機能を容易に組み込むことができます。料金体系もシンプルで、取引が成立した際にのみ手数料が発生する仕組みを採用しており、企業にとっては導入のハードルが低いと言えるでしょう。Opn Paymentsは、中小企業から大企業まで、オンライン決済を必要とするあらゆる規模のビジネスをターゲットとしており、実際に、マクドナルドタイランド、BMW、スズキ、ノボテル(タイ)、TrueMoney(タイ)、ポパー(日本)など、多岐にわたる業種の大手企業が導入しています。現在、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシアでサービスを展開しており、将来的にはベトナムやフィリピンへの進出も計画しています。
さらに、Opnは新たなサービスとしてOpn Tagを提供しています。これは、NFC(近距離無線通信)とQRコード技術を活用した、非接触型のインタラクションおよび決済ソリューションです。主にレストランやホテルなどのビジネス向けに開発されており、Opn Tagを設置することで、顧客は自身のスマートフォンをかざしたり、QRコードを読み取ったりするだけで、デジタルメニューの閲覧、注文、支払いをスムーズに行うことができます。これは、かつて普及していた「タッチ・アンド・ゴー」形式の決済の利便性を再び提供するとともに、ユーザー体験のパーソナライズ化を目指すものです。例えば、常連客であれば、Opn Tagにスマートフォンをかざすだけで、いつもの注文が自動的に表示されるといった、より顧客中心のアプローチを可能にします。Opn Tagは現在、タイと日本でパイロットテストが行われており、タイでは既に利用者の関心を集めています。
Opnはまた、組み込み型金融ソリューションの分野にも積極的に取り組んでいます。これは、金融サービスを、本来金融とは関係のない事業者のプラットフォームやサービスに統合するもので、OpnはAPIなどを提供することで、これを実現しています。具体的な事例としては、トヨタのキャッシュレス決済アプリ「TOYOTA Wallet」の開発にOpnが関与しています。これにより、自動車購入や関連サービスにおける支払いが、よりスムーズに行えるようになることが期待されます。Opnのこの分野への注力は、従来の決済処理サービスにとどまらず、より広範な金融サービスへの展開を目指す戦略の一環と言えるでしょう。
その他にも、Opnはアクワイアリングサービス(加盟店契約業務)や、複数の決済手段を統合的に管理するペイメントオーケストレーション、他のプラットフォーム内での決済を可能にするPayFac(ペイメントファシリテーター)、そしてフィンテック関連のソリューションに関するコンサルタントサービスなどを提供しており、多角的な事業展開を進めています。
創設者
Opn株式会社の共同創業者であり、代表取締役CEOを務めるのが長谷川潤氏です。1981年に東京で生まれ、経営者の両親のもとで育ちました。高校時代には単身で渡米し、ウェブサービス開発を経験。帰国後、2009年にはライフログアプリ「LIFEMee」がTechCrunch50のファイナリストに選出されるなど、早くからその才能を発揮していました。その後、いくつかの起業を経て、2013年にタイでECサービスを開発するOmise(現Opn)を設立しました。
当初はEコマースプラットフォームの立ち上げを目指していましたが、自身が求める決済サービスが存在しないことに気づき、そこにこそビジネスチャンスがあると確信し、決済機能の開発へと事業の軸を移しました。このピボットがOpnの成長の大きな転換点となります。タイの大手携帯電話事業者との業務提携を機に、マレーシア、シンガポールなど東南アジア全域への展開を成功させました。
長谷川氏のリーダーシップとビジョンは、Opnの成長に不可欠な要素です。「決済をシームレスに」「決済をボーダーレスに」という明確な目標を掲げ、既存市場の10倍の価値を生み出すような、世界中にインパクトを与える企業を目指しています。その起業家精神は高く評価されており、Forbes JAPANの「JAPAN’S STARTUP OF THE YEAR」の常連受賞者であるほか、「日本の起業家ランキング2020」では4位に選ばれるなど、数々の栄誉に輝いています。長谷川氏の先見の明と、市場の変化に柔軟に対応する能力が、Opnをユニコーン企業へと導いたと言えるでしょう。
将来性
同社は、真のグローバル企業を目指し、世界中のどこでもOpnの決済サービスが利用できる状況を作り出すことを目標としています。2022年11月には、米国の大手決済プラットフォームであるMerchantEを買収し、米国市場への本格的な参入を果たしました。これは、Opnのグローバル戦略における重要な一歩であり、今後、アジア太平洋地域だけでなく、世界市場でのプレゼンスを拡大していくための基盤となります。ベトナムやフィリピンといった東南アジアの他の国々への事業拡大も計画されており、これらの地域での市場シェア拡大も視野に入れています。
決済処理サービスに加えて、Opnはエンドツーエンドの金融サービスプロバイダーへと進化することを目指しています。その一環として、加盟店への融資サービスの提供を計画しており、また、自社の技術を銀行や企業に提供する「Banking as a service」の展開も視野に入れています。
Opnが強みを持つ組み込み型金融の分野は、今後も大きな成長が見込まれており、Opnはこのトレンドを追い風に、さまざまなプラットフォームへの決済機能の統合をさらに推進していくと考えられます。
株式市場の動向は不透明な状況が続いていますが、OpnのCEOである長谷川氏は、企業のリスク分散の動きからグローバル化は今後も進むと見ており、Opnにとっては市場を拡大する好機であると捉えています。現時点ではIPOの具体的な時期は未定ですが、売上、キャッシュフロー、利益、ガバナンスのバランスを取りながら、「IPO-able」な企業体を目指していく方針です。IPOの実施国については、市場の状況や株主の意向などを考慮して決定される見込みです。
長谷川氏が描くOpnの将来像は、決済という煩雑なプロセスを極限までシンプルにし、ユーザーが意識することなく取引が完了するような世界を実現することです。東南アジアでの強固な基盤、積極的な海外展開、そして成長著しい組み込み型金融への注力という三つの要素が、Opnの今後のさらなる飛躍を予感させます。
まとめ
Opn株式会社は、タイで創業したオンライン決済サービスOmiseから始まり、その革新的な技術と市場戦略によって、アジアのフィンテック業界を代表するユニコーン企業へと成長しました。地域に特化した決済ソリューション、容易な導入と統合プラットフォーム、戦略的なパートナーシップ、そして組み込み型金融への積極的な取り組みが、Opnの強みと言えるでしょう。創業者である長谷川潤氏の卓越したリーダーシップと明確なビジョンも、この成功の大きな要因です。
Opnは、米国市場への参入を皮切りに、グローバル展開を加速させ、決済サービスだけでなく、より広範な金融サービスの提供を目指しています。成長著しい組み込み型金融の分野での活躍も期待されており、今後の業界への影響力は増していくと考えられます。
Opn株式会社の歩みは、アジア発のテクノロジー企業が世界を舞台に成長する可能性を示す好例と言えるでしょう。今後のOpnの展開、そしてフィンテック業界全体のイノベーションの動向に、引き続き注目していきましょう。
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