毎月の銀行手数料、もう気にしない!そんな新しい銀行体験を、あなたのスマホに届けるフィンテックの風雲児、Chimeをご存知ですか?
Chimeは、伝統的な銀行のあり方に疑問を投げかけ、アプリ一つで完結する手数料無料の普通預金口座、貯蓄口座、そして信用履歴構築を助ける画期的なクレジットカード「Credit Builder」などを提供する米国の企業です。テクノロジーを駆使し、多くの人々にとってより「身近で、簡単、かつ無料」な金融サービスの実現を目指しています。
概要
社名: Chime Financial, Inc.
国:アメリカ合衆国
設立年: 2012年8月20日
業種:フィンテック
評価額: 250億ドル(2021年時点)
評価額の推移
年 | 評価額(米ドル) |
---|---|
2018年 | 5.2億ドル |
2019年 | 58.3億ドル |
2020年 | 145.1億ドル |
2021年 | 250億ドル |
歴史
年 | 出来事 |
---|---|
2012年 | Chris BrittとRyan Kingにより設立 |
2013年 | シードラウンドで380万ドル調達 |
2014年 | モバイルバンキングアプリを正式リリース(4月) |
2017年 | ユーザー数50万人突破 |
2018年 | ユーザー数100万人突破 |
2019年 | 手数料無料の当座貸越サービス「SpotMe」開始 |
2019年 | ユーザー数500万人突破 |
2020年 | クレジットカード「Credit Builder」提供開始(6月) |
2020年 | ユーザー数1000万人突破 |
2021年 | シリーズGで7.5億ドル調達、評価額250億ドルに |
2023年 | ユーザー数2230万人突破 |
2024年 | 給与前払いサービス「MyPay」提供開始 |
2024年 | Salt Labsを買収(6月) |
2025年 | 「Instant Loans」提供開始 |
2025年 | 法人向け「Chime Workplace」提供開始 |
社是: Unlock Financial Progress™ (人々の経済的な進歩を後押しする)
公式サイト: https://www.chime.com
企業の強み
Chimeがユニコーン企業へと成長を遂げた要因は、徹底した顧客中心主義と、それを具現化する革新的なビジネスモデルおよびテクノロジーにあります。伝統的な銀行が収益の柱としてきた月額維持手数料、最低残高維持手数料、当座貸越手数料といった各種手数料を大胆に撤廃したことは、特に手数料負担に敏感な若年層や比較的所得の低い層から熱烈な支持を集める大きな理由となりました。この手数料無料モデルを支えているのが、Chimeの巧みな収益構造です。主な収入源は、顧客がChimeのデビットカードやCredit Builderカードで決済を行う際に、加盟店がカード会社に支払うインターチェンジフィーの一部です。つまり、顧客がChimeのサービスを積極的に利用し、金融活動が活発になるほどChimeの収益も向上するという、顧客と企業の利害が一致する仕組みを構築しています。この「顧客の金融的進歩が自社の成長に繋がる」という構造こそが、Chimeが真に顧客の利益を追求するインセンティブとなり、高い信頼と満足度を生み出しているのです。
さらに、Chimeの強みは、顧客ニーズを的確に捉えた革新的なプロダクト群にも見られます。例えば、手数料無料で最大200ドルまでの当座貸越を可能にする「SpotMe®」は、予期せぬ出費に対する顧客の不安を軽減し、従来の銀行が課してきた高額な当座貸越手数料の問題を解決しました。また、米国社会において極めて重要な信用履歴の構築をサポートする「Credit Builder Visa® Credit Card」は、金利や年会費なしで、デビットカードのような感覚で安全に信用スコアを向上させることができる画期的なサービスです。これらに加え、給与の最大2日前受取サービスや、簡単な操作でP2P送金ができる「Pay Anyone」、充実した無料ATMネットワークなど、モバイルファーストで設計されたアプリを通じて、利便性の高いサービスを次々と提供しています。
Chimeはまた、ターゲット顧客を明確に定め、彼らに響くブランド戦略を展開しています。主に従来の銀行サービスに不満を抱く「ごく普通の人々」、特に年収10万ドル以下の層に焦点を当て、「Unlock Financial Progress™」というミッションを掲げています。単に金融商品を提供するだけでなく、アプリ内での金融教育コンテンツの提供や「Financial Progress Month」といった啓発活動を通じて、顧客の金融リテラシー向上にも貢献し、ブランドへの共感を深めています。伝統的銀行が顧客の「失敗」から利益を得ることがあったのに対し、Chimeは顧客の「成功」と共に成長する。この根本的な関係性の転換こそが、Chimeを単なる低コストな選択肢以上の存在へと押し上げ、驚異的な成長を支える原動力となっているのです。
事業紹介
Chimeは、銀行ライセンスを直接保有せず、The Bancorp Bank, N.A.またはStride Bank, N.A.といった提携銀行を通じてサービスを提供するフィンテック企業であり、いわゆるネオバンクのビジネスモデルを採用しています。その中核サービスは、顧客の日常的な金融ニーズに応えるものです。
まず、「Chime Checking Account(普通預金口座)」は、月額手数料や最低残高要件が一切なく、Visaデビットカードが付帯しています。この口座にある預金は、提携銀行を通じてFDIC保険の対象となり、万が一銀行が破綻した場合でも最大25万ドルまで保護されるため、利用者は安心して資金を預けることができます。FDIC保険とは、アメリカ連邦預金保険公社による預金者保護制度のことで、Chimeのようなネオバンクが提携銀行を通じてこの保護を提供することは、顧客の信頼を得る上で非常に重要です。
普通預金口座の保有者は、任意で「Chime Savings Account(貯蓄口座)」を開設できます。この口座は、給与振込時に一定額を自動的に積み立てる「Save When I Get Paid」や、デビットカードでの支払い時に発生する端数を積み立てる「Round Ups」といった自動貯蓄機能を備えており、無理なく貯蓄習慣を身につける手助けをします。時期によっては競争力のあるAPY(年間利回り、複利効果を含んだ実質的な年間のリターンを示す指標)が設定されることもあります。
Chimeのサービスの中で特に注目されるのが、「Secured Chime Credit Builder Visa® Credit Card」です。これは、信用履歴がまだない、あるいは改善したいと考えている人々のために設計されたセキュアードカードで、年会費や金利はかからず、利用のための与信審査もありません。普通預金口座からこのカード専用の口座に資金を移動し、その範囲内で利用する仕組みで、利用状況は主要な信用情報機関に報告されるため、計画的な利用を通じて着実に信用を構築できます。米国では信用スコアが生活のあらゆる場面で影響力を持つため、このサービスは特に若年層や金融システムから疎外されがちだった人々にとって、経済的自立への重要な一歩となり得ます。これは単なる金融商品の提供を超え、金融包摂を推進するという社会的な意義も持っています。
これらの主要サービスに加え、Chimeは利便性を高める多様な機能を提供しています。手数料無料で最大200ドルまで口座残高を超えて利用できる「SpotMe®」、対象となるダイレクトデポジットであれば給与を最大2日早く受け取れるサービス、Chime内外の相手に手数料無料で送金できるP2P決済「Pay Anyone」、そして全米50,000ヶ所以上の手数料無料ATMネットワークへのアクセスなどが代表的です。現金入金もWalgreensなどの提携店舗で手軽に行えます。これら全てのサービスは、直感的で使いやすいモバイルアプリを通じて提供され、口座管理からカードの一時停止、取引通知の確認までスマートフォン一つで完結します。
Chimeの主な収益源は、顧客がChimeデビットカードやCredit Builderカードで支払いを行った際に、加盟店から徴収されるインターチェンジフィー(カード取引の際に加盟店契約会社がカード発行会社に支払う手数料)の一部です。その他、ネットワーク外ATM利用時の手数料なども収益に貢献しています。このビジネスモデルは、顧客が積極的にサービスを利用し、経済活動を行うことがChimeの収益増に繋がるため、顧客の金融的成功を後押しするインセンティブが内在しています。
Chimeのターゲット顧客は、従来の銀行手数料に不満を持つ層、特にスマートフォン中心の生活を送るデジタルネイティブなミレニアル世代やZ世代、そして安定した収入はあるものの信用履歴の構築・改善を目指す人々です。彼らにとってChimeは、単に便利なだけでなく、自分たちの金融的進歩を真に支援してくれるパートナーとして認識されています。
創設者
Chimeの革新的なサービスと急成長の背景には、二人の共同創設者の強力なリーダーシップと明確なビジョンがあります。CEOのChris Britt (クリス・ブリット) とCTOのRyan King (ライアン・キング) は、それぞれの専門分野で培った豊富な経験と知識を持ち寄り、伝統的な金融業界に挑戦状を叩きつけました。
Chris Brittは、Chimeを立ち上げる以前、プリペイドデビットカード大手のGreen Dot Corporationでチーフプロダクトオフィサーを、またVisaではシニアプロダクトリーダーを務めるなど、長年にわたり金融サービスと製品開発の最前線で活躍してきました。彼がChimeの創業に至った動機は、既存の銀行が顧客の利益よりも手数料収入を優先するビジネスモデルや、時に顧客の金融上の困難から利益を得ようとする姿勢に対する強い疑問でした。「もっと顧客のためになる、透明性の高い銀行サービスを作れるはずだ」という信念が、Chimeの根幹を成す理念「人々が経済的に健全な生活を送れるように力を与える」に繋がっています。この信念は、教育へのアクセスが経済的進歩の鍵であるという考えにも発展し、恵まれない学生を支援するChime Scholars Foundationの設立にも結実しています。Brittの金融業界における深い洞察と顧客ニーズへの理解が、Chimeが提供するサービスの「何を」作るべきかという方向性を明確に示しました。
一方、Ryan Kingは、ChimeのCTOとして、その技術的基盤の構築と発展を指揮しています。彼は、初期のソーシャルネットワーキングサービスであるPlaxo(後にComcastが買収)でエンジニアリング担当副社長を務めたほか、MicrosoftやLiberate Technologiesといった名だたるテクノロジー企業でシニアエンジニアリング職を歴任してきました。UCLAとスタンフォード大学でコンピュータサイエンスを修めたKingの卓越した技術力と経験は、Brittが描いたビジョンを「どのように」実現するかという課題に対する答えを提供し、スケーラブルで信頼性の高いモバイルファーストのプラットフォームを構築する上で不可欠な役割を果たしました。
この二人の創設者の補完的なスキルセット、すなわちBrittの金融ビジネスへの深い理解と顧客インサイト、そしてKingの最先端テクノロジーに関する専門知識が融合したことこそが、Chimeの成功の鍵と言えるでしょう。彼らは共通して、「銀行は顧客の金融上の過ちから利益を得るべきではない」という強い倫理観を持ち、顧客の金融的ウェルネスを最優先に考えています。Brittが語るように、「我々は会員のことを深く考えている(obsession that we have with our members)」という顧客への真摯な姿勢は、Chimeの企業文化の核となり、その「超大国(superpower)」とも言える強みを生み出しているのです。彼らの個人的な使命感と市場の非効率性への深い理解が、単なるビジネスアイデアを超え、社会に実質的な価値を提供する企業を創り上げた原動力となっています。
将来性
Chimeは、これまでの目覚ましい成長を背景に、さらなる飛躍を目指しています。その動向で最も注目されるのがIPO(新規株式公開)の可能性です。長年にわたり有力なIPO候補と目されてきたChimeは、2025年の株式市場への上場を目指し、水面下で準備を進めているとの報道が複数なされています。具体的な時期は市場環境を見極めての判断となる見込みですが、IPOが実現すれば、その評価額は400億ドル規模に達する可能性も示唆されており、フィンテック業界における大型上場として大きな注目を集めることは間違いありません。
事業展開においては、中核となるリテール向け銀行サービスの強化に加え、収益源の多角化とサービス範囲の拡大が積極的に進められています。特に融資分野への本格参入は重要な戦略と位置付けられており、既に「Instant Loans」といった短期小口融資サービスを開始しています。これは、ブラジルのNubankなど、他の成功したネオバンクが収益性を高めるために採用してきた戦略と軌を一にするものです。さらに、2024年のSalt Labs買収を足掛かりに、企業向けの福利厚生サービスとして「Chime Workplace」の提供を開始しました。これはB2B2Cモデルを通じて新たな顧客獲得チャネルを開拓し、安定した収益基盤を構築する狙いがあると考えられます。将来的には、IPOで調達した資金を活用し、投資サービスなど、より広範な金融商品・サービスへの展開も視野に入れていると見られます。
Chimeのこのような動きは、金融業界全体にも大きな影響を与え続けるでしょう。伝統的な銀行に対しては、手数料モデルの見直しやデジタルトランスフォーメーションのさらなる加速を迫る圧力となり、ネオバンク市場全体の成長を牽引する役割も期待されます。競争の激化は避けられませんが、Chimeがこれまでに築き上げてきた数千万人に及ぶ強固な顧客基盤と、「顧客の金融的進歩を支援する」という明確なブランドイメージは、他社に対する大きな優位性となるでしょう。Chimeの将来性は、単に既存市場でのシェアを拡大するだけでなく、金融サービスとテクノロジーの融合を一層深化させ、総合的な「金融プラットフォーマー」へと進化していく可能性を秘めています。IPOは、その壮大なビジョンを実現するための重要なステップとなるはずです。
まとめ
Chimeは、フィンテックの旗手として、旧態依然とした銀行業界の常識に果敢に挑み、手数料無料モデルと徹底した顧客中心主義を貫くことで、短期間のうちにユニコーン企業へと駆け上がりました。スマートフォンアプリ一つで完結する利便性の高いサービス群、特に手数料無料の当座貸越機能「SpotMe」や、安全に信用履歴を構築できる「Credit Builder」といった革新的なプロダクトは、多くの人々の金融的進歩を現実に後押ししています。これまで十分な金融サービスを享受できなかった層からの支持は特に厚く、彼らの生活に具体的なプラスの変化をもたらしています。この成功の陰には、共同創設者であるChris BrittとRyan Kingの明確なビジョンと、それぞれの専門性を活かした見事な連携がありました。
Chimeの真の魅力は、単にサービスが便利でコストが低いという点に留まりません。それは、テクノロジーを駆使することで、金融サービスをより多くの人々にとってアクセスしやすく、民主的で透明性の高いものへと変革しようとする真摯な姿勢そのものにあります。顧客との間に「Win-Win」の関係を築き、顧客の利益を最優先するビジネスモデルは、今後の金融業界が目指すべき一つの理想形を示唆しており、既存の業界構造を根底から覆すほどのインパクトを秘めていると言えるでしょう。
既存業界が抱える課題や顧客の不満を的確に捉え、そこにテクノロジーと優れた顧客体験を掛け合わせることで、いかにして巨大な市場を新たに創造し、業界全体をディスラプトできるかという鮮やかな実例を提供してくれています。彼らの成長戦略、プロダクト開発の哲学、そしてこれから本格化するであろうIPOへの道のりは、新規事業のアイデアを模索している方や、自社のデジタルトランスフォーメーションを推進しようとしている方々にとって、貴重な学びとなるはずです。Chimeの物語はまた、テクノロジーが社会に存在する不平等を是正し、より多くの人々に新たな機会を提供する力を持つことの証明でもあります。利益追求と社会的価値の創造を両立させる彼らのビジネスモデルは、現代企業が目指すべき姿の一つとして、今後ますますその重要性を増していくでしょう。Chimeの次なる一手から、目が離せません。
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