海外旅行やオンラインショッピングでの外貨両替手数料、気になりませんか? もっとスマートに国際送金ができたら、と考えたことは? 実は、それを実現する画期的な金融サービスが急速に普及しています。皆さんの金融体験を、よりスムーズで、よりお得に変える可能性を秘めているのです。
それが、英国発のフィンテック企業、Revolutです。同社は、一枚のカードとアプリで、銀行口座、外貨両替、株式投資、さらには仮想通貨取引まで、従来の金融の壁を打ち破る多様なサービスを提供。まさに金融界のスーパーアプリとして、世界中のユーザーから支持を集める注目のユニコーン企業です。この記事では、Revolutの全貌に迫ります。
概要
社名: Revolut Ltd
国: イギリス
設立年: 2015年7月1日
業種: フィンテック
評価額:330億ドル (2021年7月時点)
評価額の推移:
年 | 評価額(米ドル) |
---|---|
2018 | $17億 |
2020 | $55億 |
2021 | $330億 |
歴史:
年 | 出来事 |
---|---|
2015 | Nikolay StoronskyとVlad Yatsenkoにより設立、外貨両替と国際送金サービス開始 |
2017 | 仮想通貨取引サービス追加、欧州銀行免許申請 |
2018 | ユニコーン企業となる(評価額10億ドル突破)、リトアニアで銀行免許取得 |
2019 | オーストラリア、シンガポールへ進出 |
2020 | アメリカ、日本へ進出 |
2021 | 評価額$330億達成、英国で銀行免許申請中 |
2022 | アイルランドで銀行サービス開始 |
社是: すべてのお金に関するニーズに応える、一つのアプリ、グローバル金融スーパーアプリを構築すること
公式サイト: https://www.revolut.com/
企業の強み
Revolutが短期間でユニコーン企業へと成長し、世界のフィンテック業界で注目を集める存在となった背景には、複数の戦略的な強みが組み合わさっています。単一の要因ではなく、破壊的なビジネスモデル、テクノロジーへの徹底的な注力、優れたユーザーエクスペリエンス(UX)、そしてスーパーアプリ戦略とグローバル展開という野心的なビジョンが、その成功を支えています。
まず、Revolutは従来の銀行が抱える顧客の不満、特に国際送金や外貨両替における不透明で高額な手数料体系に真っ向から挑みました。多くの銀行が収益源としてきたこれらの分野で、透明性が高く、低コスト(あるいは無料)の代替サービスを提供することで、価格に敏感なユーザー、特に海外旅行者や居住者の心を掴みました。これは古典的な破壊的イノベーションの手法であり、既存のサービスに不満を持つ層をターゲットに、テクノロジーを活用してより安価で便利な選択肢を提供し、市場に参入する足がかりを築いたのです。
次に、Revolutは金融サービス企業であると同時に、本質的にはテクノロジー企業です。最新のAPI(ソフトウェア同士が情報をやり取りするための接続仕様)を基盤としたインフラを構築しており、これにより新しい機能やサービスの開発・統合を迅速に行うことができます。これは、しばしば数十年前のレガシーシステムに縛られる伝統的な銀行と比較して、圧倒的なスピードと柔軟性をもたらします。データ分析を駆使したパーソナライゼーションやリスク管理、そしてモバイルファーストで直感的なアプリ体験へのこだわりも、このテクノロジー主導のアプローチの表れです。この開発の速さが、後述するスーパーアプリ戦略の実現を可能にしています。
さらに、ユーザーエクスペリエンス(UX)への強いこだわりもRevolutの大きな強みです。煩雑な手続きを排した簡単な口座開設プロセス、リアルタイムでの取引通知、友人間の簡単な送金や割り勘機能など、金融取引に伴うストレスを徹底的に排除しようとしています。複雑な金融サービスをシンプルで使いやすいアプリに落とし込むことで、ユーザーはより積極的にサービスを利用するようになり、結果として顧客ロイヤルティが高まります。優れたUXは単なる使いやすさを超え、ユーザーをRevolutのエコシステムに引き込み、定着させる重要な要素となっています。
これらの強みを統合するのが、スーパーアプリ戦略です。Revolutは、単一のアプリ内で、決済、送金、外貨両替といった基本的な機能に加え、株式投資、仮想通貨取引、保険、貯蓄、予算管理ツールなど、多様な金融サービスを集約・提供することを目指しています。ユーザーの金融に関わるあらゆるニーズを一つのプラットフォームで満たすことで、顧客エンゲージメントを高め、利用頻度と顧客生涯価値(LTV)の最大化を図ります。低収益な基本サービスから、プレミアムプランのサブスクリプションや投資関連の手数料など、多様な収益源を確保するための戦略でもあります。
最後に、アグレッシブなグローバル展開が挙げられます。創業当初から国際送金や外貨両替といった国境を越えるサービスを核としてきたRevolutにとって、グローバルな事業展開は自然な流れです。物理的な支店網を必要としないデジタルネイティブなビジネスモデルは、比較的低コストでの海外市場参入を可能にしました。ヨーロッパ全域から北米、アジア太平洋地域へと急速にサービスエリアを拡大し、各地での規制当局との折衝や銀行免許の取得などを進めながら、グローバルな金融プラットフォームとしての地位を確立しようとしています。
事業紹介
Revolutは、主にモバイルアプリを通じて、個人および法人顧客に対し、従来の金融機関よりも安価で、迅速かつ便利な代替手段となることを目指した、多岐にわたる金融サービスを提供しています。そのサービス群は、まさにスーパーアプリ構想を体現するものです。
個人向けサービスの中核となるのは、多通貨対応のアカウントです。ユーザーは約30種類の通貨をアプリ内で保有・管理し、有利なレート(通常はインターバンクレート、ただし週末やプラン上限超過時にはマークアップあり)で外貨両替が可能です。無料のスタンダードプランから、機能が拡充されたPlus、Premium、Metalといった有料プランまで、ニーズに応じた選択肢が用意されています。これに付随して、国内外で利用可能なデビットカード(物理カードおよびバーチャルカード)、一定額まで手数料無料の国際送金、Revolutユーザー間での即時送金、割り勘機能などが提供され、日常的な決済シーンでの利便性を高めています。
近年、Revolutは決済・送金領域を超え、投資分野にも力を入れています。多くの国で、アプリから直接、少額から始められる株式投資(端株取引も可能)や、仮想通貨(暗号技術によって保護されたデジタル通貨)の売買、さらにはコモディティ(金や銀など)への投資機能を提供しています(提供状況は国やプランにより異なる)。これにより、伝統的な証券会社や取引所を経由することなく、より手軽に資産運用を始めることが可能になりました。これらの投資機能は、特にデジタルに慣れ親しんだ若年層や、新しい資産クラスに関心を持つユーザーから支持を集めています。
その他にも、予算管理ツール、目標達成のための貯蓄機能(Vaults)、旅行保険(有料プラン)、空港ラウンジアクセス(有料プラン)、提携サービスでのキャッシュバックや割引(リワード)など、日々の生活や旅行を豊かにする様々な付加価値サービスがアプリ内に統合されています。
法人向けには「Revolut Business」として、個人向けと同様の多通貨アカウント機能に加え、法人カードの発行と経費管理ツール、給与支払いなどに活用できる一括送金機能、自社の経理システムなどと連携可能なAPIアクセス、オンラインでの支払い受け付け機能(ペイメントリンクやQRコード)などを提供しています。特に、グローバルに事業を展開する中小企業やスタートアップにとって、国際送金の手数料削減や経費管理の効率化は大きなメリットとなります。
Revolutのターゲット顧客は非常に幅広いです。個人では、頻繁に海外旅行をする人、海外居住者(エクズパット)、海外のECサイトで買い物をする人、手数料に敏感な人、デジタルでの金融管理を好む若年層、伝統的な銀行の代替を探している人、そして手軽に株式投資や仮想通貨取引を始めたいカジュアルな投資家などが挙げられます。法人では、グローバルな取引が多い中小企業、スタートアップ、フリーランサーへの支払いが多い企業、経費管理をデジタル化したい企業などが主なターゲットです。
具体的な利用シーンとしては、海外旅行者がRevolutカードを使って現地通貨で支払い、有利なレートで両替し、アプリで支出を管理するといったケースや、ユーザーがアプリ内で少額から米国株や仮想通貨に投資するケース、スタートアップがRevolut Businessを使って海外のサプライヤーへの支払いを低コストで行い、従業員に経費管理用の法人カードを配布するケースなどが考えられます。これらの多様なサービスを一つのアプリでシームレスに提供することで、Revolutはユーザーの金融生活における中心的なプラットフォームとなることを目指しています。
創設者
Revolutの成功の裏には、二人の創設者の存在があります。CEOのNikolay Storonsky氏とCTOのVlad Yatsenko氏です。彼らの経歴と創業の動機が、RevolutのDNAを形作っています。
Nikolay Storonsky氏は、Revolut設立前、クレディ・スイスやリーマン・ブラザーズといった大手投資銀行でエクイティ・デリバティブのトレーダーとして活躍していました。モスクワ物理工科大学で物理学を、新経済学校(モスクワ)で経済学の修士号を取得しています。金融業界の第一線で働く中で、自身が海外送金やカード利用時に経験した不透明な手数料や不利な為替レートに強い不満を感じていました。この原体験が、Revolutのアイデアの源泉となります。
一方のVlad Yatsenko氏は、ドイツ銀行やUBSでソフトウェア開発者として、大規模な金融システムの構築に携わってきた経験を持ちます。コンピュータサイエンスのバックグラウンドを持つ彼は、堅牢でスケーラブルな金融テクノロジープラットフォームを構築する技術的な専門知識を有していました。
Storonsky氏の金融市場と顧客のペインポイント(不満点)に対する深い理解と、Yatsenko氏の金融システム開発における高度な技術力。この二つの要素が組み合わさったことが、Revolutの成功の基盤となりました。Storonsky氏が「何が問題か(高額な手数料、悪いUX)」を自身の経験から特定し、Yatsenko氏が「どうやって解決するか(テクノロジーで代替する)」という技術的な道筋を示したのです。
彼らは、Storonsky氏が個人的に感じていた「従来の銀行サービスは、テクノロジーを活用すればもっと良く、もっと安く、もっと透明にできるはずだ」という強い信念に基づき、2015年にRevolutを設立。当初は、多通貨対応のカードとアプリを通じて、外貨両替の問題を解決することに焦点を当ててサービスを開始しました。
彼らが掲げるビジョンは、「グローバル金融スーパーアプリ」、つまり、あらゆる金融ニーズに一つのアプリで応えられるプラットフォームを構築することです。その根底には、透明性(明瞭な価格設定)、低コスト、顧客によるコントロール(アプリを通じた管理)、スピード、利便性、そして絶え間ないイノベーションといった原則があります。既存の金融システムの常識に挑戦し続けるという姿勢が、Revolutの企業文化として根付いています。創業者自身の不満から生まれたというストーリーは、同様の不満を持つ多くのユーザーからの共感を呼び、初期の急速な成長を後押しした要因の一つとも言えるでしょう。
将来性
ユニコーン企業として確固たる地位を築いたRevolutですが、その成長はまだ道半ばです。今後もグローバル展開とサービス拡充を軸に、さらなる飛躍を目指しています。
成長戦略の柱の一つは、継続的なグローバル市場への進出です。既に確立した欧州、北米、アジア太平洋地域でのプレゼンスを強化するとともに、ラテンアメリカやアジアの未開拓市場への参入も視野に入れています。これにより、スーパーアプリ戦略の基盤となるユーザーベースをさらに拡大し、テクノロジープラットフォームのスケールメリットを追求します。
もう一つの柱は、スーパーアプリとしての機能深化です。決済、送金、投資といった既存のサービスに加え、各国での銀行免許取得を前提とした、より本格的な銀行サービス(融資、クレジットカード、住宅ローンなど)への展開が予想されます。また、投資オプションのさらなる多様化や、保険商品の拡充なども考えられます。これにより、ユーザー一人当たりの収益性を高め、プラットフォームへの依存度をさらに強める狙いがあります。
ただし、急速な成長とグローバル展開には課題も伴います。最大の課題は、成長と収益性のバランスをどう取るか、そして各国の複雑な金融規制にいかに対応していくかです。特に、融資などの与信ビジネスへの本格参入は、より厳格なリスク管理体制と規制遵守が求められます。高評価額に見合う持続的な収益モデルを確立することが、今後の重要な焦点となるでしょう。
Revolutの躍進は、金融業界全体にも大きな影響を与えています。伝統的な銀行に対しては、デジタルサービスの強化、手数料の引き下げ、ユーザーエクスペリエンスの向上といった変革を迫る圧力となっています。また、フィンテック業界、特にネオバンク(物理的な支店を持たず、オンラインやモバイルアプリを通じてサービスを提供する銀行)やスーパーアプリの分野においては、Revolutの成功が新たなイノベーションを刺激し、競争を激化させています。今後、フィンテック市場での再編や淘汰が進む中で、Revolutがどのような役割を果たしていくのか、業界全体の動向と共に注目されます。
まとめ
Revolutは、英国から登場し、伝統的な銀行のあり方に疑問符を投げかけた、フィンテック・ユニコーンの代表格です。その成功は、国際送金や外貨両替における高額な手数料といった顧客の不満を解消する破壊的な低コストモデル、テクノロジーを徹底活用した直感的で高機能なアプリ、優れたユーザーエクスペリエンス、そして決済から投資まで多様な金融サービスを一つのアプリに集約するスーパーアプリ戦略、さらに積極的なグローバル展開といった強みの組み合わせによってもたらされました。
個人向けには有利なレートでの外貨両替や国際送金、手軽な株式投資や仮想通貨取引、法人向けには効率的な経費管理やグローバル決済など、現代のニーズに応える幅広いサービスを提供しています。創業者自身の原体験に基づく「金融をより良くしたい」という強い思いが、イノベーションを推進する原動力となっています。
今後の課題は、グローバルな成長を持続させながら、いかにして安定した収益性を確保し、各国の規制に対応していくかという点にあります。しかし、そのポテンシャルは依然として大きく、金融業界における破壊者としての影響力は増していくと考えられます。
Revolutの事例は、テクノロジーがいかに伝統的な金融のあり方を変革し、よりグローバルで、透明性が高く、利用者に便利なサービスを生み出せるかを示しています。今後のフィンテック業界の動向、そしてRevolutのようなイノベーションを推進する企業が私たちの生活やビジネスにどのような影響を与え続けるのか、注目していく価値は大きいでしょう。
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